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きざし昇の雑記帳

きざし昇の雑記帳

こんなの出ました 2

 落ち葉を舞い上げた風が吹き抜けると、ガチャガチャとねずみ色のシャッターが一斉に鳴る。
 
 このシャッター通りをひとつ奥に入ったドン詰まりに、「よろず相談所」の看板を掲げる一軒家がある。

 ここは時間が止まり、空気がセピア色になった不思議な空間が広がる。

 皆さんはこんなことを聴いたことがあるだろうか。

 本物の霊能者は、わざわざ目立つ看板なんかを揚げず口コミでその実力が知れられるもので、市井のなかに静かに佇んでいる。
 唯一その存在が知られるのは、その者の葬式に大物政治家や有名企業の花輪がたくさん並ぶのを見るときだと。

 そういう世間の評価基準で計るなら、「よろず相談所。運命原理研究評議会」という看板を堂々と掲げるのはどういうことになるのだろう。

 その看板には、「骨董品の鑑定をいたします。お気軽にどうぞ」とへたくそな字で後から書き足されている。それもスマイル・マーク付だ。

 運命原理研究評議会という存在も気になるが、それよりもこんな看板を見て気軽に入っていく人の方が、私個人としてはもっと気になる存在である。


 ****

客 「先生! ここで一発人生の大勝負しようと思っていてネ、そこで先生ご意見を聞きたいんですがネ」

霊能者 「オオ、人生の大勝負か。ワシの好きな言葉だぞ。

 どれ、あんたの大勝負ということなら、ワシも腰をすえねばならないな」


客 「ちなみに・・・なんといいますか、相談料はいかほどで?」

霊能者 「そうじゃな、人生の大勝負ということであればワシとて責任重大だで。
 マーそれなりに準備が必要になるな。

 そうさな、いつものお山に篭ってな、いわゆる霊的エネルギーを充電するのにチト時間が掛かるでの・・・・

 経費を見込むとなるとな・・・・そうさな・・・・」



 霊能者は、年代物の大きなそろばんを取り出すと、半眼にして考えている。どうやら、客の懐具合を探っているみたいだ。

客 「先生、誠に申し訳ないないのですがね、本題の相談をさせていただく前に、その・・・なんていうか・・・」

 男の話しの途中で、霊能者は大きな目をさらに大きく見開き男を見た。

霊能者 「なんだね。ワシの実力のお試しが必要ということかな。
 世間様では、クーリング・オフなんていうしゃれた制度があるという話を聞くからな。。。
 ワシのこういう仕事は、良心的に誠実であるというのが筋というもんだでな。あんたがお望みなら、ワシはかまわんぞ」


客 「ありがたい! 今すぐに、そのお試しというのをお願いできますか?」

 普通の神経なら、霊能者とこの場の雰囲気に呑まれるものだと思うが、この客の男は鈍いのか、まるで調子が変わらない。

霊能者 「ああ、かまわんよ。 ただし、ディープな質問は勘弁してくれよ」

客 「ヘヘヘ、もちろんですよ。なにしろお試しせすからそれぐらい承知していますよ。小手調べに、先生、競馬なんてどうです?」

霊能者 「専門外じゃな」

客 「医者じゃあるまいし、専門外だなんて冗談を・・・」

霊能者 「どんな仕事でも、得意な分野と不得意な分野があるもんだ。
 ワシの仕事でも同じだし、もっと言えば、この仕事は依頼の相性が大切でな。好き嫌いがどうしてもでるもんだ」


客 「先生、仕事に好き嫌いをいちゃーダメだと学校の先生も言いますよ。何しろ先生は、凡人に見えないものが見えるんでしょ。。。ネッ?」

霊能者 「そうだが・・・」

客 「でしたら競馬場で馬が走るところなんて、簡単に見ることが出来るんじゃないですかね?」

霊能者 「ああ、それぐらいなら専門外でも見えるだろよ」

客 「でしたらね、贅沢は言いませんから、その先生が見えた映像をそのまま教えてくださいなナ」

霊能者 「そんなことでお試しは良いのか?」

客 「それで十分ですとも。軽く競馬場の様子を覗いてみてくださいよ」

霊能者 「それでいいのなら、どれ覗いてみるかな」

 霊能者は首にかけていた大きな数珠を手に持つと、深呼吸を三つ・・・・
 まぶたを閉じた目玉が忙しく動いている。

霊能者 「おお、馬の走る姿が見えるぞ・・・」

客 「先生、何が見えます?」

霊能者 「土を巻き上げて走る馬の姿だ。
 大きな尻が見えてるぞ。

 何でバケツを馬の尻と書くんじゃ?馬の尻を見てもワシには訳が解らんな」


客 「先生、馬のケツもバケツも語源もいいですから、違う角度からう一度よく見てくださいよ」

霊能者 「そうか・・・

 今度はたくさんの馬の顔が見えるぞ。
 大きな目だ。 馬面とは良く言ったものだな、言われてみればあいつは確かに馬顔だ」


客 「馬ズラもいいですから、どんな顔です? 色は栗毛? 黒毛?」

霊能者 「オイ、何を贅沢なことをいうんだ。ワシに馬の顔の見分けが出来ると思っているのか? どれも同じだろ。
 それにカラーじゃないから、色なんて判るか」


客 「そうなんですか・・・
 でしたらね、馬の横腹にカタカナで馬の名前とゼッケンがあるでしょが!
 それぐらい見えるでしょ!
 ゴールをするところを良く見てくださいよ」

霊能者 「お試しでいいと言うくせに注文が多いな・・・
ゴールをするところだな・・・・

あっ!」


客 「アッ!とはどういうことです?! 何があったのですか?」

霊能者 「見えるには見えたが、馬があまりにも早すぎて読めなかった・・・・」

客 「モ~近づき過ぎなんでしょが。世話がかかるなー 
 ソレ、もとっと離れて、離れて、よく見えるポジションから、もう一度見直して!!」

霊能者 「本当に人使いが荒いヤツだ。ちょっと待って焦るでないわ・・・・

ああ、今度は遠くて数字しか読めない」


客 「ああーー、まじめに見るつもりはあるんですか?」

霊能者 「こりゃ失敬! 
 不得意だと最初に断ったはずだけど・・・

 オお♪ 今度はよく読めたゾ。

 ゴールを真っ先に通過するのは」


客 「一番で通過したのは・・・」

霊能者 「ハ・・イ・・」

客 「ハイ?」

霊能者 「セ・・イ・・コ・・ウ・・・
 
 こいつは時計屋の馬か?」


客 「ハイ・・セイコウ・・・ハイセイコウ? 
 あーーー、そんな古い馬をいまさら見てどうするの!!」

霊能者 「古い馬なのか?
 だからギャンブルは専門外だと最初に言っただろが。

   なんたって寝ているときに見る夢と同じでな、時間と場所を特定するのが一番難しいんじゃ!!」 



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